第2章 この疾病の特徴
(仮訳) 鹿児島大学 岡本嘉六
訳注: 赤の強調は、訳者の判断による。
定義
口蹄疫は、偶蹄類動物が懸かる感染力が強いウイルス性の水泡性疾患である。成獣は滅多に死亡しないが、生産に重大な損失を引き起こし、家畜と畜産物の国際貿易における主要な制約となっている。幼獣の死亡率は高く、とくに子羊と子豚では顕著である。
世界的分布
口蹄疫は、アフリカ、中東およびアジアの多くの国で風土病となっており、広く流行しているが、南米の一部にも存在している。ヨーロッパ、北米と中米、大洋州およびカリブ海沿岸は口蹄疫清浄国である。
過去10年間に報告された様々な血清型の分布は以下の通りである。O型:アジア、アフリカと南米の一部、それにイギリスと一部の西ヨーロッパへの最近の侵入(訳注: 本書は2002年刊行であり、2001年の発生を指している)。A型:アジア、アフリカと南米の一部。Asia 1型:アジア、南東ヨーロッパ。SAT 1型:アフリカ、アラビア半島。SAT 2型:アフリカ、アラビア半島。SAT 3型:南アフリカ。C型:南アジア、東アフリカ。
近年における世界流行O型口蹄疫ウイルスのPan-Asia株の発生は、この疾病が突然、思いがけず国際的に広がる可能性を示した好例である。北インドで1990年に最初に確認されて以降、口蹄疫は、ネパール(1993)、サウジアラビア(1994)、さらに、中東の大部分に広まり、1996年にはヨーロッパ(トルコ東部トラキア、ブルガリアおよびギリシア)、バングラデシュへと拡大した。さらに、1998年には豚ン、1999年には中国、台湾、タイおよびマレーシア、2000年にはロシア連邦、モンゴル、韓国、日本および南アフリカ、2001年にはイギリス、アイルランド、フランスおよびオランダへと広がった。
病因
口蹄疫ウイルスは、ピコルナウイルス科のアフトウイルス属に分類される。ビリオン(構造的に完全で感染力のある完全ウイルス粒子)は、エンベロープを持たず、直径約25 nmで、左右対称の正二十面体である。それは一本鎖RNAと4種類の構造的ポリペプチド(VP1、VP2、VP3およびVP4)のそれぞれ60分子を含んでいる。それらの中で、VP1は、感染した宿主で中和抗体の産生刺激となる重要な抗原決定基を含んでいる。口蹄疫ウイルスには、A、O、C、SAT 1、SAT 2、SAT 3、Asia 1の7つの血清型がある。全ての血清型は、臨床的には区別がつかないが、免疫学的に区別可能な病気を引起す。血清型の間には交差免疫が全くない。それらは、ウイルス中和試験(VNT)、補体結合試験(CFT)、酵素免疫吸着法(ELISA)を含む様々な血清学的検査によって識別できる。それぞれの血清型には、相互に近いか遠いかの関係にある一連の抗原性が異なるウイルス株が存在する。抗原性状の多様性は、A型で最も著しい傾向にある。抗原性と遺伝子性状による口蹄疫ウイルスの解析は、疫学的研究とともに、ワクチン接種が行われている地域にとって最も適切なワクチン株の選定に重要である。
口蹄疫ウイルスは、酸性とアルカリ性の両方の状態に感受性がある。このウイルスはpH 7.4〜7.6で最も安定しているが、pH 4以下およびpH 11以上で全ての株は急速に不活化(死滅)する。ウイルス株が感染力を保有する中間値にはバラツキがあるが、それに影響する主な要因は温度である。ウイルスは4℃においてpH 6.7〜9.5で感染力を保有するが、温度が上昇するとその範囲が狭くなる。
ウイルスの感染性に対する温度の影響は、有機物が不活化に対して何らかの保護をすることから、試験用の培地によって影響される。氷点下以下の温度では、ウイルスはほぼ無期限に安定である。簡単な培地に4℃で保存すれば、ウイルスは1年間以上も感染力を維持する。ウイルスの懸濁液は、約22℃の環境温度では8〜10週間、37°Cでは10日間まで感染性を維持する。これ以上の温度では、不活化がより急速に起きる。たとえば、56℃では30分間あれば、口蹄疫ウイルスのほとんどの株を十分に不活化できる。
日光自体はこのウイルスにほとんど影響を与えない。環境中での不活化は、乾燥(相対湿度60%未満)と温度の影響とより強く関係している。酸性とアルカリ性の処方は、消毒に最も効果的である。
疫学的特徴
感受性動物
家畜の中では、牛、水牛、豚、羊、山羊および鹿が口蹄疫に感受性であるが、一般的に、牛と豚が最も重篤になる。ラクダ科(ラクダ、ラマおよびビクーニャ)の感受性は低い。野生の偶蹄類は感受性である。まれであるが、象、ハリネズミおよびいくつかの齧歯類の口蹄疫が記録されている。アフリカ水牛(バッファロー、Syncerus caffer)は血清型SATの口蹄疫ウイルスに広く感染しているが、臨床的発症はめったにみられない。
いくつかの口蹄疫ウイルス株は、一種またはもう一種の家畜(たとえば、豚や牛)に対して顕著な偏好性をもっている。たとえば、近年東アジアを循環している豚偏好性O型株がそうである。
人間の感染は、報告されてはいるが、きわめて稀であり、しかも軽症である。しかしながら、ウイルスは臨床症状を引起すことなく人間の気道に24時間以上滞留することがある。
ウイルスの生存
環境中: 口蹄疫ウイルスは、乾燥、熱および不利なpHから保護されている場合、環境中でかなりの期間感染性を維持できる。たとえば、乾燥した糞便中では14日間、冬季のスラリー(糞尿懸濁液)中では6ヶ月間、尿中では39日間、秋季の土壌の表面では28日間、夏季の土壌の表面では3日間、ウイルスは生存できる。これらの知見は温帯地方の国々で一般的に観察されたことであり、熱帯地方ではもっと短期間であると予想される。
宿主中(病気の発生を含む): 呼吸器系は、反芻動物における主要な感染経路であり、ごくわずかな量のウイルスで感染を起こすことができる。豚においても呼吸器系が一般的な感染経路であるが、反芻動物と比べて経口感染が起きやすい。草の種子によってできた傷、粗飼料の給餌、趾間腐乱、搾乳器や牛の鼻輪拘束中の爪による外傷の結果できた皮膚や粘膜の傷を通してもこのウイルスは感染し得る。
吸入後、ウイルスを含む小滴は線毛運動によって咽頭部位まで運ばれる。咽頭粘膜と所属リンパ節における最初の増殖の後、ウイルスは血流によって、腺組織、別のリンパ節、口と蹄の上皮組織、雌の乳腺を含む二次増殖部位へと運ばれる。膣と包皮も含まれることがある。心筋は幼獣において二次増殖部位となる。
ウイルスは、呼気、全ての分泌液と排泄液(乳と精液を含む)中、ならびに、水泡から大量に排出される。豚は呼気中に莫大な量のウイルスを排出し、その量は牛の約3000倍にもなる。
口蹄疫ウイルスの排出は、臨床症状が現れる最大4日前に始まり、このことは重要な疫学的意義を持っている。ウイルスのほとんどの排出は、水泡ができてから4〜6日後に止まり、その時血中抗体が現れる。ウイルスは、口の病巣よりも蹄の病巣に1日か2日長く存在するので、日が経った症例の診断のために蹄の病巣はウイルスのより適した材料となり得る。口蹄疫ウイルスは、実験感染した牛の乳汁と精液に、それぞれ、23日間と56日間検出されている。
臨床症状がなくなった後、反芻動物の最大80%は持続的感染状態になる。この状態は、「キャリヤー状態(保菌状態)」と呼ばれ、初感染から28日を越えたウイルスの保有と定義される。そのような持続感染は、咽頭組織と食道上部組織で成立する。キャリヤー状態の持続時間は、宿主、ウイルス株およびその他の要因によって異なる。報告されている様々な動物種のキャリヤー状態の最長期間は、牛で3年半、羊で9ヶ月、山羊で4ヶ月、そして、アフリカ・バッファローで5年以上である。ウイルスは、咽頭・食道ぬぐい液採取によってそれらの動物から断続的に回収できる。回収できるウイルスの量と頻度は、時の経過により減少する。鹿、カモシカおよびラマは、キャリヤーとならないか、または、短期間のみウイルスを保有する。水牛にキャリヤー状態があるかどうかについてはほとんど判っていない。豚は、長期に亘ってキャリヤーとなることはなく、感染後3〜4週間以内にウイルスの排出を停止する。
畜産物中: 口蹄疫ウイルスは、と殺後の正常な酸性化の過程を経たと体の筋肉中で不活化するが、冷凍または冷蔵されたリンパ節、骨髄および残血の中できわめて長期に亘って感染性を維持し、内臓でも短期間維持される。ウイルスが長期間感染力を維持できるその他の製品には、未調理の塩漬け肉と加工肉、塩蔵生皮、未殺菌の乳および乳製品が含まれる。
疾病の伝播
口蹄疫は、動物疾病の中でおそらく最も伝播力が強い。豚は、経口感染が起き、呼気中に大量のウイルスを排出することから、重要な増幅宿主とされている。牛は、呼吸器感染の感受性が極めて高く、重度の典型的臨床徴候を一般的に示すことから、指標宿主として適切だとされている。羊は、いくつかのウイルス株の感染が病気の明白な徴候を示すことなく群れから群れへ広がることから、維持宿主と考えられている。全ての口蹄疫ウイルスが疫学的に同じように振舞う訳ではないし、同じ宿主域を持つ訳ではないことを強調しなければならない。
この疾病は、以下を含む様々な経路で伝播する。
● 直接接触: 口蹄疫は感染動物と感受性動物との直接接触によって容易に広がり、これが抜きん出て最も重要な伝播様式である。飼育密度は、病気の蔓延速度の決定因子であり、高い飼育密度および感染動物と環境の両方からの高度の暴露により、過密飼育地帯ではきわめて急激に広がることがある。逆に、熱帯の大規模な放牧地帯において広がった病気は、より一層油断のならない場合がある。保護水準(回復またはワクチン接種のいずれかによる)は、家畜群内のウイルスの移動を緩和することができる。たとえば共通の水飲み場、ワクチン接種、羊の体の洗浄、羊毛の刈り取りなどへの家畜の集合は、あるいは、移動放牧や遊牧を通して、病気が新たな群や新たな地域へと広がる機会となる。この病気は、家畜市場や家畜展示会を通した感染動物の移動によってきわめて急激に播種されることもある。このような状況においては、ウイルスを排出しているが、まだ明白な病巣ができていない動物は、とくに重要である。口蹄疫の伝播における持続感染動物の役割ははっきり判っていない。キャリヤーから感受性のある牛への伝播は、これまでの実験では証明されていない。しかしながら、キャリヤーの水牛から牛への野外におけるウイルスの伝播は、アフリカにおいて証拠がある。これには緊密な接触が必要であり、おそらく、稀な出来事であろう。
● 間接的な伝播: 口蹄疫ウイルスは、感染した分泌液と排泄物(唾液、乳、糞便および尿)で汚染された家畜の飼料、敷料、機材、家畜の係留場所、車両(とくに家畜輸送車両の積滞区画)、衣類などを含む様々な媒介物によって機械的に容易に広がる。気象と環境の要素は、ウイルスが媒介物に生存できる期間を決定する。家畜と蜜に接触する獣医師とその他の作業員は、農場から農場へとウイルスを運ぶリスクがある。
● 豚への残飯給餌: ウイルスに汚染された肉屑や乳製品を含む未処理の残飯は、感染を広げる可能性が高い。航空機や船舶に由来する残飯は、主要な感染源とみなされており、病気が国際的に蔓延した一連の事例の原因となっている。
● 風による伝播: 温帯地方において風が感染を相当の距離に運ぶということは、ヨーロッパでの数回の発生で起こったと信じられている。陸上における風の伝播の大半は10 kmまでと確認されているが、水上での250kmの拡散は、1981年のワイト島の発生事例で起きた可能性がある。風による伝播のパターンは、一般的に、感染源の豚から風下の牛へと広がり、その地方に当該家畜が高密度で飼育されている場合に起こり易い。さらに、以下の気候条件が必要である: 風速と風向が一定で弱い、相対湿度が高い(60%以上が最適)、日射が弱く大雨がない。風による長距離の伝播は、アフリカ、中東、アジアまたはラテンアメリカにおいてこれまでに観測されていない。
● 人工繁殖: 口蹄疫ウイルスの伝播は、感染した精液を用いた人工授精によって起きることがある。しかしながら、適切に採集・洗浄された完全な透明帯のある胚の用いた胚移植は(国際胚移植学会(IETS)によって定められた手順に従う)、リスクとならない。
病気の様相
それまで清浄だった群、地域または国にこのウイルス(または、新らたな血清型)が侵入すると、高い罹患率できわめて急激に広がる流行をもたらすことが多い。
病気の疫学的様相は、世界の温帯と熱帯/亜熱帯の地域で異なる傾向を示す。温帯地域では、環境中でウイルスがより多く、長期間生存するため、媒介物を介した間接的な伝播が、感染動物と感受性動物との直接接触と同じ程度重要であることを意味する。風による伝播は、いくつかの環境条件が揃った場合に可能である。
他方、熱帯地域では、間接的伝播は直接的伝播よりも重要性が相対的に低いと考えられる。感染した可能性がある動物の移動および家畜取引きの様相が、しばしば、そのような地域における疫学を理解する鍵となる。
|
訳注: 基本的事柄を今更翻訳する気にさせたのは、口蹄疫の怖さが一般市民に十分理解されていないと思われる節がある一方、畜産関係者の間で「鳥や昆虫が媒介するのでは手の施しようがない」といった困惑が広がっていることを憂慮したからである。口蹄疫の基本をきちんと理解し、同じ血清型が侵入したお隣りの韓国では宮崎県のような悲惨な事態になっていない理由を考えてもらい、基本を忠実に実行すれば制圧できる病気であることに気付いてもらいたいが為である。 伝播様式の重要性は、「直接接触」、「間接的な伝播」、「豚への残飯給餌」、「風による伝播」、「人工繁殖」の順であり、より重要な伝播様式から順に対処することが大切である。 家畜の移動等による「直接接触」の機会があったのではないかという噂が早くから流れているが、その事実関係についての調査結果は公表されていない。川南地区においてヒトが農場から農場へとウイルスを運ぶリスクが存在していたのかどうかという「間接的な伝播」についても噂の域を出ていない。そして、制限地区を越えた発生があってからの調査活動もきわめて限定的であり、どこまで広がっているのか不安に思うのは当然である。 ところが、県境を接する大分県豊後大野市が発生地域の住民が市の施設を利用することに制限を設けたところ、種々の反発が出ている。伝染病を媒介する可能性がある発生地区からのモノとヒトおよびそれを運ぶ車両について、九重連山の大畜産地帯を背景としている豊後大野市が適切な制限を加えることは理に叶ったことであり、それを非難する方々は宮崎県の再来を望んでいるのか? さらに不可解なことは、某知事が非難の輪に加わっていることである。「私どもも制限区域内の車両、モノ、ヒトの移動については慎重な配慮を求めており、これまでの反省に立って豊後大野市の措置に協力したい」と言うべきところであろう。非常事態宣言を出している県とは思われない発言である。 追記(6/19): 「某知事を個人攻撃するのは止めなさい」という私宛の抗議が届いている。様々な権限を行使できる権力者の間違った施策を批判できなければ民主主義は死滅する。これを「個人攻撃」と受取られてはどうしようもない。某知事は豊後大野市の措置を攻撃する一方で、宮崎県内の公共施設を閉鎖している(口蹄疫発生に伴う公共施設の閉鎖について)。「消毒しているから安心だ」と豊後大野市を非難するのであれば、それより過激な宮崎県内の閉鎖措置との一貫性をどのように説明するのか? 奇奇怪怪の妄言に踊らされてはならない。これは伝染病制御のための措置であり、「人種差別」のような受取り方は間違っている。これ以上の拡大を防ぐために、近隣の県民と同様に宮崎県民も頑張るしかないのである。 |
(つづく 6/18)
臨床徴候
自然発生した病気における潜伏期間は様々であり、主として、動物種、ウイルス株、暴露量、ならびに、感染経路に依存している。短い場合には2〜3日、暴露ウイルス量がごく僅かの場合は10〜14日と長くなる。発生の初発症例の潜伏期間は、その後の症例より長い傾向がある。他方、実験的に感染させた場合には18〜24時間と短い。
牛
病気の最初の徴候は、発熱(最高42℃)であり、重度の沈鬱、食欲不振および泌乳の突然の停止を伴う。1日かそこら以内に水泡が形成され、その好発部位は、舌、唇、歯肉、歯間部、鼻孔、蹄間部の皮膚、蹄冠帯、ならびに、泌乳動物の乳頭部である。水泡は、時折、鼻孔内部または鼻鏡部、眼瞼、陰門に出現する。病変部は、これらの部位の一つ以上において小さな肥厚として始まる。病変部は速やかに水泡へと進み、当初は直径1〜2cmだが、急激に大きくなりしばしば融合する。それらは透明な麦わら色の液体で満たされ、それを覆う上皮は白色化する。水泡は24時間以内に破れ、肉が剥き出し、激痛を伴う潰瘍となり、壊死した上皮の不規則な破片で囲まれる。
口腔部では、水泡は舌、歯肉、歯間部でとくに際立つ。重症例では、舌背面粘膜の大部分が脱落することがある。破れていないか破れた直後の水泡がある激痛を伴う口内炎は、過度の流涎、舌鼓および採食廃絶を引起す。体重が急激に減少する。併発症がない場合、口の病変部はおよそ10日間で急速に治癒し、採食は水泡破裂後数日以内に回復する。
蹄の病巣および二次感染と関係する急性の跛行(歩行困難)と運動の忌避は、蹄の深部における重度の病変と関係していることがある。移動不能は、罹患動物が採食や飲水のために移動できないことにより、重度の脱水、体重減少および衰弱をもたらす。乳頭病変部は、二次感染による乳房炎を併発させることがある。
罹患率は非常に高いが、成獣の死亡率は一般的に5%未満である。食肉と乳の生産および牽引力の著しい低下を伴い、しばしば回復が遅れる。妊娠動物は流産することがある。長期の後遺症には、脚の変形と乳房の永久的傷害が含まれる。時によっては、内分泌腺障害が暑熱不耐性、ならびに、呼吸困難と肺活量低下によって特徴付けられる慢性「浅速呼吸症候群(panting syndrome)」が引起される。
若齢の子牛が感染すると、心臓病変形成の結果として、水泡病変なしで突然死することがある。そのような動物の死亡率は50%以上となり、感染母牛の泌乳量減少や哺乳不能という事実によってさらに悪化する。
生産能力が高い動物ほど重症化する傾向がある。風土病地域における在来種牛の口蹄疫の臨床的徴候は、通常、上述よりも軽度である。
豚
豚の口蹄疫の初期徴候には、発熱、食欲不振および運動忌避が含まれる。最も著しい水泡は脚に現れる。それらの水泡は、急性の跛行(歩行困難)、激痛および横臥を引起し、とくに硬い床で飼育されている場合には顕著である。豚は膝で歩こうとする。しかしながら、柔らかい敷料で飼育されている場合に感染豚を発見するのが難しいことが時々ある。水泡は、蹄冠、指間の皮膚、上爪、蹄球面に出現する。病変部は膝と飛節にも現れることがある。蹄冠を囲む水泡は、蹄冠部からひづめの角質層の脱落を引起すことがある。重症例には、ひづめの痂皮形成がみられる。そうでない場合、蹄冠部水泡が破裂した1週間後から、古い爪と新しい爪の分離線が1週間当り約1mmの速さで着実に下方に移動する。豚の口蹄疫病変部の経過は、しばしばこのように推移する。
水泡は鼻にもしばしば出現する。通常、鼻鏡上部に単一の大きい水泡ができる。舌の水泡は、豚で比較的珍しく、できても小さく、急速に治癒する。
雌豚は乳頭にしばしば水泡ができる。妊娠豚は流産することがある。哺乳子豚の死亡率は高く、心筋炎で突然死亡するが、水泡はできない。これは、群における病気の最初の明白な徴候となる。
羊と山羊
羊と山羊の口蹄疫は、一般的に、他の動物種よりはるかに軽症であり、しばしば発見を逃れる。口の病変部は目立たない。
水泡は、歯茎と舌背面に最もでき易い。それらは、小さく、急速に回復する。
脚の病変部をみつけることは難しいが、蹄冠帯と指間皮膚に現れることが多い。しばしば、病変部を見つけるために蹄冠部の毛を剃る必要がある。跛行(歩行困難)は、しばしば、群れにおける口蹄疫の唯一の明白な徴候であり、跛行のその他の原因と識別を要する。羊と山羊の脚の病変部は、腐蹄症を含む細菌の二次感染を引起す。
他の動物種と同様に、心臓病変形成の結果、若齢の子羊と子山羊の突然死は普通にみられる。死亡率は、90%に達することがあるが、通常、約50%である。
病理
肉眼的病理
生きている動物の外部検査によって見られるかも知れない病変部は別として、水泡病変部は反芻動物の第一胃柱および噴門洞のその他の上皮でもみられることがある。心筋の病変部は、若齢の動物に共通している。不定形で灰色の壊死部によって、心臓の心筋層/心外膜が縞模様(いわゆる「虎斑心」)を呈することがある。
組織病理
口蹄疫の組織学的病変部は、それほど特徴的ではないが、感染初期において有棘層および棘細胞離開を起している細胞層における液体を満たした多房性水泡として現れる。心筋のヒアリン変性は、口蹄疫による致死例を特徴付ける。確定診断は組織病理に基づくべきではない。
|
口蹄疫病変部の経過時間の判定 口蹄疫が群れで最初に確認された時、病変部の経過時間の判定が可能であれば、おおよその初感染の時期を判定するために有益な手助けとなり、感染源を突きとめることに役に立つ。以下の表は、様々な時期における病変部の特徴としていくつかの指標を与えるものである。羊と山羊の病状は比較的軽いので、それらの小型反芻動物よりも、牛と豚において診断価値が高いだろう。 |
|
|
病変部のおよその経過時間 |
病変部の特徴 |
|
1日 |
少量の液体を含み破れていない水泡と、それを覆う上皮に壊死の初期兆候。 |
|
1〜2日 |
液体が満ち破れていない水泡と、それを覆う上皮の壊死。 |
|
1〜3日 |
水泡は破れ、糜爛が存在し、上皮の不定形の破片が病変部辺縁に不着。早期には、病変部の露出中心部は明るい赤色だが、繊維素沈着が起こるにつれて赤色が変化する。 |
|
4日〜1週間 |
上皮がほとんど付着していない糜爛、病変部の辺縁における上皮の再生を伴う初期の治癒過程のため病変の辺縁が「滑らか(もはや不定形でない)」になる。 |
|
7〜10日 |
線維組織の形成を伴う治癒の進行。 |
免疫
血中の中和抗体は、感染後4〜10日以内にできる。回復動物は、同じ血清型の近縁ウイルスによる再感染に対して、一般的に、かなりの長期間(少なくとも5年間)免疫を持っているが、別の血清型に対しては感受性のままである。
ワクチン接種後の防護の程度は、ワクチン株と野外株との抗原性の関係によって大きく左右される。ワクチンは、同じ血清型の抗原変異株に対して部分的免疫しかない。強力なワクチンは、接種後4日で免疫を付与する。しかしながら、ワクチンによる免疫は長期間維持されず、したがって、一定の間隔(たとえば、 6〜12ヶ月)で再接種する必要がある。市販の口蹄疫ワクチン製造者は、初回接種後3〜4週間以内に2回目の接種を行うことを推奨している。しかしながら、風土病の状況では、6ヶ月間隔で2回接種し、その後1年間隔で再接種するのが一般的である。ワクチン接種された動物集団は、発症を免れるが、自然流行時に症状を示さないまま感染し、ウイルスを排出することがある。ワクチン接種時に潜伏期にあった動物は、依然として軽症ながら発病すること、ならびに、ワクチン接種を受け暴露された動物はその後7〜14日間依然として感染を広げ得ることに注意することは重要である。
診断
野外診断
過度の流涎、跛行(歩行困難)およびその他の疑わしい臨床徴候を示す感受性動物は、水泡病変がないかどうか慎重に調べなければならない。水泡病変が見つかった場合、口蹄疫を強く疑わなければならず、鑑別診断を確保し、鑑別診断の途中であってもさらなる拡大を防ぐために、直ちに適切な行動を起さなければならない。この行動には、適切な診断標本の採集(または、専門的診断チームによる実施のため派遣を要請する)、地方の獣医官(PVO)および/または国の主席獣医官(CVO)への通知、ならびに、即座の検疫措置の実施またはその指示が含まれる。疑わしい動物を検査した後、個人的消毒を行うべきであり、どんな事情があっても、その日のうちに別の農場を訪問してはならない。
鑑別診断(省略)
試験所での診断(省略)
(完 6/20)